2026年1月
「調整時数制度」をどう生かすか
渡辺 敦司
次期学習指導要領を巡って昨年9月に中央教育審議会の教育課程企画特別部会(企特部会)論点整理が創設を提言していた「調整授業時数制度」について、1月19日に開催された総則・評価特別部会(総則部会)の第5回会合で文部科学省事務局が具体案を示した。学校現場の関心も高い提案を、どう受け止めるべきか。
1割以上を削減し「研修枠」にも活用可
同制度は多様な子どもたちを包摂する教育課程編成を促進するため、現行の教育課程特例校や授業時数特例校の制度を一般化し、国の指定を待つことなく学校等の判断で実施できるようにするもの。各教科等の標準授業時数を減じて調整時数を生み出し、別の教科等に上乗せしたり「裁量的な時間」や新教科の創設に充てたりする。時数の上限や条件など具体策は以後の検討に委ねられていたため、総則部会の動向が注目されていた。
事務局案によると、減じる対象からは標準時数35コマ以下の教科等を外す。一方、時数特例校では除かれていた総合的な学習の時間も、対象に加える。
調整時数の上限は、時数特例校(1割)より多い「1割以上」とした。もちろん各教科等の内容は、すべて扱うことが前提。
裁量的な時間(資質・能力育成に効果的な学習プログラム等)に充てる場合、これを「学習枠」と呼ぶことにした。授業改善に直結する研究・研修に充てる場合は「研究・研修等枠」と呼び、学習枠の範囲内に位置付けて実施する。
学習枠の類型としては①個に応じた学習過程の充実に資する取組②学習の素地を高める取組③関係性の質を高め、学習の一層の円滑化に特に資する取組④その他地域等の特色を生かした取組――を列挙。研究・研修等枠でも4類型を挙げた。
この他、現行で年間35週以上としている授業時間は、実態に合わせて「年間40週を標準」などとする。標準を上回って計画された年間授業時数について、そのまま週当たりのコマ数として実施するのでなく、年度途中でもカリキュラム・マネジメント(カリマネ)を行って調整時数に回しやすくする狙いもある。
学校教育法施行規則の別表で小学校45分、中学校50分とされている授業の1単位時間については、各40分、45分に引き下げるといった報道が先行していた。実際の事務局案では、各学校で適切に定めるよう明確化した上で指導要領総則でも丁寧に記載するとしている。
自律的で創造的な教育への突破口に
こうした事務局案を巡っては、委員からは現場の裁量を過度に制限しない運用の柔軟化や、教育の質を担保する基準を求める意見が相次いだ。
ただし事務局もそうした意向は織り込み済みで、学習枠の類型も実施状況や取り組みの進展を見ながら見直すとしている。2026〰27年度に先行実施する「教育課程柔軟化サキドリ研究校事業」を含め、徐々に好事例を創出しながらスモールステップで柔軟化を図っていきたい考えだ。
それでも文科省が細かな条件付けや類型化にこだわっているのは、法令に準じた指導要領が法的拘束力を持つだけでなく、国が教育課程の基準を示すことにより全国的な教育水準の維持が求められているからだ。安易な受験指導に偏るなど、不適切な教育が行われることに歯止めをかける狙いもある。この日の事務局案でも、不適切な運用実態を把握した場合には都道府県教育委員会や私立学校担当部局等が指導・助言を行って速やかな改善を図るとしている。
一方で先に見た通り、総則部会の委員には学校の裁量や自律性に期待する向きが強い。主査の貞広斎子・千葉大学副学長も、会合の最後で「学校の先生方の能力に、高く期待をしている。最初の突破口としては支援があってもいいが、できれば独自でもっと多くのことができるよう自走していただく、そういう世界線も諦めたくない」と述べていた。
しかし長く現場を取材していると、近年ますます指導要領や解説の一言一句に縛られていく傾向が強まっているような気がしてならない。教科等ワーキンググループ(WG)で現場委員の発言を聞いていても、そうだ。
現在は教育課程部会長を務める奈須正裕・上智大学教授に以前インタビューをした時、「『試案』ではなくなり法的拘束力を持つようになった(19)58~60年の指導要領以降、国が学校現場にカリキュラムの裁量権を与えてこなかった影響も大きいと思います。……現場が自由裁量の余地を上手に使えないからといって、『ではこうしなさい』と細かく指示したのでは、いつまで経っても日本の教育は、自律的で創造的なものにはならないのです」(拙著『学習指導要領「次期改訂」をどうする』2022年、ジダイ社)と語っていた重みを、今さらながら思い起こしている。
(教育ジャーナリスト)