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2026年6月

「中核的概念」と「高次の資質・能力」

渡辺 敦司

 

 学習指導要領の改訂を検討している中央教育審議会で、17ある教科等ワーキンググループ(WG)のうち6月末までに11WGが取りまとめ案の修正を主査に一任して最終回を迎えた。一方で、次回会合を7月24日に設定したWGもある。ところで最初に主査一任を取り付けた理科WG(5月22日)の取りまとめ案に、不思議な表現があったことに後で気が付いた。

別物か、単なる言い換えか

 次期改訂での各教科等は、小・中・高校で目標を統一するなど一層の系統性を図ることが大きな方針となっている。「理科WGとりまとめ案」でも資質・能力の構造化を巡る「学習内容、高次の資質・能力の区分方法」の項目で「理科の学習内容については、学校段階間のつながりや学習内容の学問的系統性をより明確にする観点から、小・中・高等学校共通で4つの『分野』(物理・化学・⽣物・地学)に分けて整理することが適当である」としている。

 不思議な表現というのは、その一文に付けられた三つの注(※)のうち最後のものだ。「従来の4領域『エネルギー』『粒子』『⽣命』『地球』で育もうとしていた中核的な概念は『高次の資質・能力』において表現するとともに、学問分野の横断性については『区分』と学習内容において確保する」とある。この4領域は、現行指導要領の解説では「科学の基本的な概念等」と表現されている。それが「中核的な概念」に置き換わっている上に、それを「高次の資質・能力」で表現するという。両者が別物のような書きぶりである。

 中核的概念は、2024年12月の大臣諮問で審議事項の中に「各教科等の中核的な概念等を中心とした、目標・内容の一層分かりやすい構造化」が盛り込まれたことに端を発する。もっと言えば、諮問の準備作業を担った「今後の教育課程、学習指導及び学習評価等の在り方に関する有識者検討会」論点整理(同年9月)に「各教科等における目標・内容を中核的な概念や方略を中心にして分かりやすく一層構造化する」と提言されたのが最初だ。

 諮問後の教育課程企画特別部会(企特部会)「論点整理」(25年9月)では、知識・技能(知・技)の「中核的な概念の深い理解」と思考力・判断力・表現力等の「複雑な課題の解決」を設定。個別の知・技や思・判・表と合わせて「タテ・ヨコの関係」を可視化することで「深い学び」を授業で具現化しやすくすることを打ち出した。

 その後、教科等WGとともに置かれた総則・評価特別部会(総則部会)では「新たな用語の提起には慎重であるべきとの指摘もあり、現行との連続性を感じられる書きぶりとすることが重要」(25年10月の第2回会合)との理由で「知識・技能に関する統合的な理解」「思考力・判断力・表現力等の総合的な発揮」と言い換え、二つを総称して「高次の資質・能力」と呼ぶことにしたと説明している。つまり、中核的な概念と高次の資質・能力は、単なる言い換えだったはずだ。

上がらない抽象度

 高次の資質・能力を巡っては、もう一つ気になる議論があった。各WGの検討状況の報告を受けた6月1日の総則部会で、教育課程部会長でもある奈須正裕・上智大学教授が「個々の教科は頑張ってくださるが、こうやって並べてみれば、ばらつきがある。もっと(抽象度を)上げていただきたい。同時に、上げるときのキーワードが欲しい」と要請したのだ。

 高次の資質・能力を巡っては昨年10月の総則部会で、各WGが3月中を目途に「精査」を行い、総則部会と企特部会の「再調整」を経て「最終調整」を行うというスケジュールが示されていた。実際、今年2月の企特部会では精査の方針が各WGに示された。しかし、その後はWGの論議が長引き、再調整の間もなく続々と取りまとめ作業が進められて今に至っている。高次の資質・能力の書きぶりも、2月段階のものに微調整が加えられた程度で基本的には変わっていない。

 各WGの事務局は教科等によって児童生徒課や特別支援教育課、スポーツ庁・文化庁の担当課などの場合もあるし、多くは教育課程課だから同時並行でWGを動かすには資料作りだけでも大変だ。だから途中段階で表現ぶりに多少の混乱があったとしても、責めるのは酷かもしれない。先の理科も、最終的には修文されるのだろう。そもそも高次の資質・能力という用語も改訂という「工事」が終われば外す「足場」(2月の企特部会)だというから、こだわっても意味はない。ただ今回の審議過程でいろいろ混乱があっただろうことは、後世のためにも記録しておきたい。

 個人的には理科WG取りまとめ案の通り、4領域の名称こそ中核的概念の「キーワード」のように思えてならないのだが。 

(教育ジャーナリスト)