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2026年8月

「精緻」化と「分かりやすさ」

渡辺 敦司

 

 31日に開催された中央教育審議会の教育課程企画特別部会(企特部会)では、資料編を含め1000ページを超える「次期学習指導要領等に向けた審議まとめ」素案を議論した。素案では、深い学びを実装するために「統合的な理解・総合的な発揮」(仮に「統理・総発」と略す)を改めて整理したことが注目される。統理・総発による指導要領の構造化は、本当に「分かりやすく使いやすい指導要領」につながるのだろうか。

構造化は現行版の「進化」?

 新たな整理では、統理・総発を「いわゆる方向目標」だと明記した。それぞれ個別の知識・技能(知・技)と思考力・判断力・表現力等(思・判・表)の「深まり」を可視化して「深い学び」を実現する単元・題材構想に資するだけでなく、多様な子どもたちの深い学びも確かなものにするという。しかも「確かな知識」の習得に直結するから、学力向上にも大きく貢献するとした。

 一方で、統理・総発のみを取り出して達成状況を評価することは求めない。個別の資質・能力の達成状況を評価する中で結果として統理・総発の育成状況も見取れる、というのが理由だ。

 統理・総発という用語を提案した総則・評価特別部会(総則部会)では、両者を「高次の資質・能力」と総称していた。ただし各教科等ワーキンググループ(WG)では、委員から「『高次の資質・能力』とは何か、よく分からない。単元目標のようなものか」といった疑問が相次いでいた。これを受けて素案では、単に「よりレベルの高い資質・能力を求めるもの」等の誤解を避けるため今後、高次の資質・能力という用語は用いず、統理・総発のみで丁寧な説明に努めるとした。

 一方で統理・総発による指導要領の構造化が、指導要領をより「精緻」にするものだとも認める。そこで諮問以来の大原則である「分かりやすく使いやすい指導要領」を目指すため、指導要領の一文を短くしたり重複分を避けたりして簡潔にするとともに、表形式を採用して視覚的にも俯瞰(ふかん)的・直感的に把握できるようにすることを求めた。しかも、それが現行指導要領で資質・能力による構造化を図った延長線上に可能となった「進化」だと位置付けた。

 ただし指導要領上の記述ぶりにしても、構造化・表形式化・デジタル化の一体的具体化にしても、最終的には文部科学省に委ねている。本当に「分かりやすく使いやすい」指導要領になるのかどうかは、実際に告示されてみないと何とも判断できないのが現状だ。

逆に教科書依存を強める恐れも

 「教科書『を』教えるから、教科書『で』教えるへ」――。この古くて新しい課題は、昨年9月の論点整理で改めて打ち出された。今回の素案でも、構造化を生かした単元構想を実現することで、育成すべき資質・能力を意識せずに教科書「を」網羅的に教える授業や「本時主義」からの脱却につなげることが重要だとした。

 そのため一部の教科等には、単元構想や授業づくりの「参考イメージ」が盛り込まれた。デジタル指導要領を見ながら、どういう観点と順序で作っていけばいいのかが図解で詳しく示されている。

 ただし学校種別などの一例が示されただけで、委員からは「全単元で作成してほしい」という意見も根強かった。しかし素案では、カッコ書きの補足ながら「教師が参考イメージを常に作成することは想定していない」と明記している。

 では現場は、何を参照すればいいのか。素案は、教科書会社が参考イメージで示したような整理を行いながら教科書を編集して指導書等でいっそう具体的に示していくことで、経験の浅い教師でも授業づくりが徐々にできるような環境を促していく必要があるとしている。 

 確かに教科書は、これまでも「主たる教材」として教材研究の中心を担うものとされている。採択教科書だけでなく、複数の教科書を参照することも奨励されてきた。しかし実際の教科書を見なければ単元をどう作っていけばいいのかのイメージもつかめないとしたら、少なくとも当面は「経験の浅い教師」に限らず、逆に教科書や指導書への依存を強めることになりはしないだろうか。

 約90ページにわたる「次期学習指導要領の基本的方向性」だけ読んでも、審議まとめ素案が「精緻」に論理構成されていることが見て取れる。同時に「全国の教師一人一人にまで届く周知を行うことはもちろん、学習の主体である子供たちや学校を支える保護者、地域住民等にも分かりやすく周知を行う、社会全体に趣旨の浸透を図ることもまた、極めて重要な条件整備である」としているが、本当に「分かりやすい」と受け止められるだろうか。 

(教育ジャーナリスト)