Vol.08:私の気になる1冊(2)

庭田杏珠・渡邉英徳編著
『AIとカラー化した写真でよみがえる戦前・戦争』



 先の第二次世界大戦の終戦(敗戦)は、75年前のことである。その頃、小生は4歳、防空壕の暗闇で母親にしがみついていたくらいのかすかな記憶しかない。
 しかし、その後のひもじく辛かった生活は鮮明に覚えている。そして、平凡な生活を取り戻すために家族全員で力を合わせ、必死でがんばったことを想い出す。
 「戦争はすべきでない」「平和は大事だ」と誰もが言うのに、それとは裏腹に国のリーダーも政治家も庶民も無関心で、地球上のどこかで、いまだに戦争が繰り返されている。

 本書は、AIを駆使して戦前・戦中(1926年~1945年8月)とその直後(1945年8月~1946年)のモノクロ写真をカラー化して、間接体験を通して、「平和」について考えようとするもので、見て感じ、見てわかり、見て考える好著である。
 著者の話では、AIは万能ではないので、関係者を訪問し、実際の色合いについて聴き取りをし、苦労して完成させたそうである。

 350枚余の写真のはじめのほうに、大正末期の幸せあふれる家族の写真がある。その後、昭和の10年頃には戦禍が次第に近づいてくる様子が、街並みや庶民の服装、学校の授業風景や子どもの遊びの様子からうかがえる。
 41年以降は、真珠湾攻撃をはじめ専ら戦争関連の写真ばかりである。在米日系人の強制収容、戦況が次第に後退していく様子、児童の集団疎開等の写真が重く迫ってくる。
 44年以降は、複雑な表情で特攻隊を家族7人で見送る写真、敗走する日本軍、米軍の本土空襲や沖縄上陸、広島と長崎への原爆投下など目を覆いたくなる写真ばかりである。

 終戦直後のマーシャル諸島での骨と皮だけの兵士の姿、上野駅構内の悲惨な戦争孤児たち、焼け野原の日本各地の写真などを見て、戦争の惨禍を肌で感じ、2度と戦争をしてはならないと強く思った。平和の素晴らしさを再認識し、平和を願い、発言し、行動することの必要性を強くした次第である。
 そして、全ての国・地域・民族が仲よく、それぞれが自由に、互いをせめない地球にしたい。きっとできると確信している。

 本書をまずご自身で読み、家族や友人と話題にしていただきたい。そして、学校の先生方には、学校図書館や学級文庫の1冊に加え、子どもたちと「戦争と平和」について考える教材として活用していただきたい。

新書判 本体1500円+税
光文社

一般財団法人教育調査研究所研究部長 小島 宏

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