Vol.55:一人一人の学び

  今年7月末に「令和5年度 全国学力・学習状況調査」の結果が公表されている。各学校では、それをもとに自校の児童生徒の学力や学習状況について分析し、それまでの指導の状況を振り返り、授業の改善について検討したと思う。

  その際に、おそらく多くの学校では、各設問の正答率、特に正答率の低い設問に着目して分析したと思う。マスコミ等でも、あるいは教育委員会でも、正答率に着目しての報道や指導・助言が行われることが多い。

  調査結果には正答率だけでなく、設問ごとの無解答率も掲載されている。また、児童生徒や学校を対象にした質問紙の回答状況の結果も掲載されている。これらも視野に入れて児童生徒の学びの全体像を浮かび上がらせていくことが大切ではないかと思う。

  小学校 算数の結果の全国平均をもとに、児童の学びの状況を見ていきたい。

1 無解答率
(1) 問題ごとの無解答率
  小学校 算数の問題は全部で16問出題されている。各問題の無解答率は下の表のとおりである。無解答率の範囲は最低0.7%~最高13.7%、中央値は3.2%である。 

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(2) 無解答率と出題形式

  問題の出題形式は、下の表のように「選択式」、「短答式」、「記述式」の3通りがある。

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(3) 出題形式ごとの無解答率

  出題形式の数とそれぞれの無解答率の範囲は次のとおりである。無解答率は「記述式」の問題で高い傾向にあり、「選択式」や「短答式」の問題では低い傾向にあることが分かる。

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  ここで気にかかるのは、「選択式」の無解答率の高さである。「選択式」の問題は、他の出題形式と異なり、提示されている選択肢から適切だと思うものを選択する解答方法であり、「答え」を記入しようとさえ思えば誤答であっても解答することはできる。

  「選択式」の問題に無解答だった児童の中には、最初から解答することを諦めてしまっている児童が少なからずいるのではないかと推測する。

2 質問紙の回答状況
   無解答率を中心にして見た学力調査の状況は前述のとおりだが、指導の状況はどうだろうか。そして、児童はどのように学んでいるのだろうか。
   次に学校質問紙の回答の状況と、児童質問紙の回答の状況を見ていく。


(1) 学校質問紙の回答から

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  上のグラフは、学力調査の対象の児童が「授業で課題の解決に向けて自分で考え、自分から取り組むことができていると思うか」という質問に対する回答の状況を示したものである。
  徐々に肯定的な回答が増え、令和5年度は、9割近くの学校が「そう思う」「どちらかと言えば、そう思う」という肯定的な回答をしている。



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  このグラフは、学力調査の対象の児童に対して「算数の授業において、公式やきまり、計算の工夫等を指導するとき、児童がそのわけを理解できるように工夫していたか」という質問に対する回答の状況を示したものである。
  各年度、ほぼ100%に近い学校が「よく行った」「どちらかと言えば、行った」という肯定的な回答をしている。



(2) 児童質問紙の回答から

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  このグラフは、「算数の勉強が好きか」という質問に対する回答の状況である。
  令和3年度には「当てはまる」と「どちらかと言えば、当てはまる」を合わせて7割近かった肯定的な回答が、令和5年度には6割近くに低下している。

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  このグラフは、「算数の勉強は大切だと思うか」という質問に対する回答の状況である。

  各年度、9割を超す児童が「当てはまる」、「どちらかと言えば、当てはまる」と肯定的な回答をしていることが分かる。

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  このグラフは、「算数の授業はよく分かるか」という質問に対する回答の状況である。
「当てはまる」、「どちらかと言えば、当てはまる」という肯定的な回答が減少してきていることが分かる。


3 まとめ
  質問紙の回答状況から、指導者側は「算数の授業では、公式やきまり、計算の工夫等を指導するとき、児童がそのわけを理解できるように工夫している」し、「児童は授業で課題の解決に向けて自分で考え、自分から取り組むことができている」と認識していることが分かる。
  しかし、「算数の勉強は大切だ」とほとんどの児童は思いながらも、約4割の児童は「算数の勉強が好きだ」とは思っていない。「算数は好きではないけれど、大切だからやらなければ…」と思って我慢をして授業を受けている児童が少なからずいることを認識しなければならない。しかも「算数の授業の内容はよく分かる」児童は減少してきている。

6


















  学校質問紙に今年度、新たに「調査対象学年の児童に対して、前年度までに、学習指導において、児童一人一人に応じて、学習課題や活動を工夫しましたか」という質問が設けられた。

  上の円グラフのように、「よく行った」、「どちらかと言えば、行った」という肯定的な回答は合わせて9割を超えている。


  今後、学習課題や活動が児童一人一人に適しているのかを十分に検証し、真に一人一人の児童に合った課題や学習の仕方を工夫し、すべての児童が意欲をもって算数の学習に取り組める実践をしていく必要があると考える。 

(A.O)

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