Vol.25:何を、いつ、どのように評価するか


 小学校では昨年度から、中学校では今年度から、改訂された学習指導要領に基づく教育課程が実施されている。今回の改訂では、各学校において、教育課程に基づいて組織的かつ計画的に教育活動の質の向上を図ることが求められている。各学校では学校評価をはじめとして、さまざまな教育活動について振り返りと改善が行われていることと思う。

 さて、今般、中央教育審議会の審議を受けて、文部科学省は教員免許状更新講習を「発展的に解消する」方向で進めることが報道された。これまで教員免許状更新講習については、「講習を受ける時間がとれない」、「受講の費用が高い」、「講習の内容が日頃の教育活動と合っていない」などの声がさまざまなところで出され、廃止することが求められていた。

 このような声がありながら教員免許更新講習が継続されてきた理由の一つに、毎年度、受講後に行われる「免許更新講習事後評価」の結果があるのではないかと考えている。この評価は、各大学等で行われている講習が終了した後に、受講者に事後評価をしてもらったものをまとめたものである。
 評価は「必修領域」、「選択必修領域」、「選択領域」の三つの領域ごとに、三つの項目(「Ⅰ 講習の内容・方法についての総合的な評価」、「Ⅱ 講習を受講した受講者の最新の知識・技能の習得の成果についての総合的な評価」、「Ⅲ 講習の運営面についての評価」」について、受講者に4段階で評価を求めている。

 平成30年度から令和2年度までの直近の3年間のデータについて、領域ごとに、三つの評価項目の合計値を肯定的評価(「よい」と「だいたいよい」)と否定的評価(「あまり十分でない」と「不十分」)に分けて記すと以下のようになる。(数値は四捨五入されているために合計が100%にならないことがある) 【必修領域の3項目の合計値】

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 このデータを見ると、どの領域も肯定的評価が高く、どの年度もほぼ95%である。このデータだけ見れば、教員免許状更新講習に対する批判的な声があったとしても、受講者からこれだけの支持を得ているのだから継続するべきだという結論になることは、十分に納得ができる。

 今回、中央教育審議会の教員免許更新制度小委員会では「令和3年度免許更新制度高度化のための調査研究事業」の結果が示された。この調査は全国の現職教師を対象に、インターネットによる抽出で行われた調査であった。

 調査の結果を見てみると、受講した講義内容の満足度は、受講直後では「満足」「やや満足」が57.9%を占め、「最新の知識・技能を習得できる内容であったか」については、52.6%が「そう思う」「ややそう思う」と感じているものの、受講内容が現在の教育現場で「役立っている」「やや役立っている」との回答は33.4%と低くなっている。


 総合的な満足度は、「不満」が39.0%であり、「やや不満」の19.5%と合わせる58.5%となる。「満足」「やや満足」の合計は19.1%であった。

 具体的には、講習そのものの時間数(30時間)の負担感と総合満足度の低さが最も相関しており、満足度低下の一因となっている可能性が高いとみられる。次いで、受講費用に対する負担感および業務との兼ね合いについて総合的な満足度の低さで相関が高くなっている。

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 毎年度の「免許更新講習事後評価」の結果と、今回の「免許更新制度高度化のための調査研究事業」の結果は、調査の目的や調査時期、調査対象、調査方法などが異なるので、直接、比較することはできない。しかし、調査の仕方によってこれだけの違いが出ることがわかる。

 「免許更新講習事後評価」は、その名の通り、講習直後に行われている。受講者は受講にあたって、30時間の講習時間のやり繰りや講習会場までの移動や宿泊、受講料などさまざまな負担を負ってきている。受講者はその負担に見合う「よい講習だった」と思う傾向にあるだろう。「30時間にわたる受講が終わった」という達成感ともあいまって、講習に対する評価は高くなることが十分、予想される。

 学校における教育活動の評価についても、評価しようとしていることをきちんと評価できているのか、評価の時期や内容、方法などをもう一度見直しをすることが必要ではないだろうか。

 例えば、保護者にある行事についてアンケートをとることがある。「記憶が鮮明なうちに」ということから、行事終了直後に行うことが多い。
 保護者は行事開催までの間、子どもの練習のために朝早く起こして登校させたり、子どもが練習で疲れて帰ってくれば早く寝られるように気をつかったり、場合によっては行事に必要なものを作ったりとさまざまな協力をしている。
 このような状況で行事終了直後にアンケートをとれば、保護者は行事への自分の貢献を無意識のうちに加味し、行事に対する協力の度合いが高ければ高いほど評価が高くなることが予想される。

 また、アンケートのとり方についても、例えば、4段階評価でとり、下位の評価をした場合に理由を記述してもらうことがある。学校としては、アンケートを行事の改善に結びつけるためにそのようにしているのだが、保護者はできるだけ簡潔に回答したいと思うのが普通であろう。
 そうすると、下位の評価を選択するのを避けることになる。その結果、その行事は高い評価を得ることになる。

 このように、アンケートの仕方によって回答に歪みが生じることを認識することが大切ではないだろうか。教育活動が真に実りあるものとし、改善を図っていこうとするのであれば、評価の時期や方法、内容を見直す必要があると考える。

(A・O)

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