Vol.49:いじめの重大事態の取り扱い

 今年の4月14日付の全国紙に「韓国政府が大学の一般入試の選考に、生徒がいじめなどに関わった記録を反映させる方針であることを発表した」という記事が載った。同国首相は「加害生徒に必ずいじめの責任を負わせる」とコメントしたという。同国政府は大学卒業時まで不利益が続くことで抑止力を高めるねらいがあると説明している。

 いじめに対しては、毅然とした態度で臨むことが非常に重要である。韓国政府の発表の内容は一定の抑止力になることが期待できる。一方この措置によって、いじめがより一層巧妙に行われ、見えにくくなることも懸念される。

 我が国でも、いじめ問題の解決は喫緊の課題である。
 「
令和3年度児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査」によれば、いじめの全認知件数は615,351件であり、前年度に比べ19.0%の増加、重大事態の全発生件数は705件で、前年度より191件の増加だった。

 このようなことを背景に、文部科学省はいじめの重大事態に関する通知を2つ出している。
 1つは、今年2月7日に発出された「いじめ問題への的確な対応に向けた警察との連携等の徹底について(通知)」である。いじめの重大事態は学校だけでは対応が困難な事案もあるため、警察と連携することを求めている。
 2番目は、3月10日に発出された「いじめ重大事態に関する国への報告について(依頼)」である。重大事態の調査の第三者性の確保や運用について改善するなど必要な対策を講じるため、文部科学省とこども家庭庁が重大事態の情報を共有することを示し、文部科学省へ重大事態の報告・相談を求めた。

 児童生徒の生命にも関わる重大事態に的確に対応することは非常に重要なことであり、この2つの通知の重要さは十分に理解できる。それと同時に、学校では、児童生徒がいじめを起こさないようにする方策を講じることが大切なのではないだろうか。

 現在、学校では特別の教科 道徳や学級活動等を中心にいじめに関わる指導を行い、一人一人の児童生徒にいじめをしない力を育てている。このような取組とともに、学校全体でいじめが起きない環境(校風・伝統)に創り上げていくことが必要であると考える。
 いじめ防止のサミットを開いたり、児童生徒の集会を開いたりして、児童生徒自身がいじめについて考え、意見を交換するなどの取組をしている学校や自治体がある。

 大切なのは、それが単なるイベントで終わることなく、それをきっかけとして児童生徒自身が主体となって、いじめ防止の取組を継続させていくことである。その効果は相当の時間が経過しないと表れないだろう。

 いじめは、児童生徒が行う行為である。いじめについての児童生徒の行動や考え方を根本から変えるためには、児童生徒主体の地道な取組を継続させることが大切ではないだろうか。

(A.O.)

コピーライト

  • Copyright 2009 Japan Educational Research Institute. All rights reserved. Designed by TypePad