Vol.33:子どもを「ほめる」ことについて


 最近、『先生、どうか皆の前でほめないでください―いい子症候群の若者たち―』(東洋経済新報社)という本を読んで驚いた、いや愕然とした。
子どもを「ほめるときは皆の前」で、「叱るときはその子だけ」というのが、教師にとって、常識(当たり前のこと)だったからだ。

 古くは、「評価観を見直すことである。誤りや不十分な方法を生かす、励ましのための評価を充実させ、独力で誤りや不十分なものを乗り越え、よりよいものを求めて意欲的に取り組むことようにすることが大切である。また、「分からない」「できない」といった否定的な評価から、「どんなことが分かる」「どこまでならできる」といった肯定的な評価に転換する必要がある。つまり、どこまでならできるかを明確にし、そこからねらいを達成するまでの道筋を明らかにすることで、一層個に応じることができ、指導に生きる評価ができるようにする必要がある」(文部省「小学校指導書算数編」平成元年6月p180)とある。

 また、「子どもの良い点や工夫を見つけ、認め、褒め、自信を持たせる肯定的評価が重要である。ただし、よりよくするために不十分なことについても分かり易く簡潔に注文を付ける評価も必要である」(平成3年、都教委指導部初等教育指導課長K)とも言われていた。

 現在も、「児童の優れている点や長所、進歩の状況などを取り上げることに留意する。ただし、児童の努力を要する点などについても、その後の指導において特に配慮を要するものがあれば端的に記入する」(学習評価及び指導要録の改善等についての文部科学省の「通知」平成31年3月29日「別紙」p5)とあり、肯定的評価が求められている。

 冒頭に挙げた著書は、金間大介(金沢大学教授&東京大学未来ビジョン研究センター客員教授)が、学術的研究や学生・若者との触れ合い体験、思考実験などを通じて、「いい子症候群の若者たち」として、「ほめられたくない」「目立ちたくない」「埋もれていたい」などの特徴を捉えた「新しい若者論」である。

 内容は、次のような構成になっている。
第1章「先生、どうか皆の前でほめないで下さい―目立ちたくない若者たち―」
第2章「成功した人もしない人も平等にして下さい―理想はどんな時でも均等分配―」
第3章「自分の提案が採用されるのが怖いです―自分で決められない若者たち―」
第4章「浮いたらどうしようといつも考えます―保険に保険をかける人間関係―」
第5章「就職活動でも発揮されるいい子症候群―ひたすら安全を求めて―」
第6章「頼まれたら全然やるんですけれどね―社会貢献へのゆがんだ憧れ―」
第7章「自分にはそんな能力はないので―どこまでも自分に自信のない若者たち―」
第8章「指示を待っていただけですけど―若者たちの間に広がる学歴社会志向とコネ志向―」
第9章「他人の足を引っ張る日本人―若者たちが育った社会―」
第10章「いい子症候群の若者たちへ―環境を変える、自分を変える―」

 著者も、このような「いい子症候群(無難に世の中を渡って、自分も得をするし(損をしないし)、相手に損をさせず、自分に干渉させない(攻撃させない)、そして言われたことだけを無難にやり遂げ、それなりの評価を得ることができる)」を、改善することを願っている。


 そこで、今後の学校教育でも、肯定的評価をいっそう充実させ、自分の生き方を求めるとともに、よりよい社会づくりに、自信をもって取り組めるよう子どもを育てることが求められる。


(教育調査研究所研究部長 小島 宏

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