Vol.61:「暑いから読書」「寒いから読書」
「読書の秋」と言われますが、夏でも冬でも、エアコンの効いた部屋で「暑いから読書」「寒いから読書」としてもよいではないでしょうか。
そこで、最近、雑読した本を何冊か紹介します。書店・図書館で見かけたら、ぜひ手に取ってみてください。
<その1> 養老孟司・奥本大三郎著『ファーブルと日本人』 かや書房 1540円(税込)
本書は医学者、医学博士、解剖学者、東大名誉教授で、「昆虫博士」の異名をもつ永遠の昆虫少年、養老孟司と、フランス文学者でエッセイスト、NPO日本アンリ・ファーブル会会長、ファーブル昆虫館「虫の詩人の館」館長、奥本大三郎が、昆虫の話から環境問題や日本文化、教育問題、AI、老後問題、経済など日本のことを多様な視点から語り合ったものです。
2024年はファーブルが誕生して201年目にあたります。
本書で、『ファーブル昆虫記』とは何か、ファーブルがどのような人生を送ったのか、そして日本人とは、と改めて考えてみましょう。
内容は、以下のように構成されています。
第1章「『ファーブル昆虫記』と現代」
第2章「人間には自然が必要だ」
第3章「ファーブルと日本人」
第4章「ファーブルという生き方」
第5章「日本人は最終的に自然に回帰する」
第6章「予定調和でない世界に立ち向かう」
<その2> 松尾太加志著『間違い学―「ゼロリスク」と「レジリエンス」―』新潮新書 880円(税込)
機械化やDX(企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズをもとに、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること)がいかに進化しても、人間のために作られた仕組みである以上、人間が関わるので、ミス(ヒューマンエラー)による事故はなくなりません。
著者は、「注意しなさい」というだけではミスはなくならない、働き方改革(労働環境や業務の見直し)とともに、第三者(外部)から気づかせるシステムづくりが必要だと主張し、間違い(エラー)が生じても被害を最小化するレジリエンスを組織的に高めていくことが大事だと提言しています。
内容は、以下のように構成されています。
第1章「ヒューマンエラーがもたらす事故」
第2章「ヒューマンエラーとは」
第3章「エラーをした人は悪いのか?」
第4章「外的手がかりでヒューマンエラーに気づかせる」
第5章「外的手がかりの枠組みでエラー防止を整理」
第6章「そのときの状況がエラーを招く」
第7章「外的手がかりは使いものになるのか」
第8章「IT、DX、AIはヒューマンエラーを防止するのか」
第9章「ゼロリスクを求める危険性」
教育の展開におけるミスの減少に役立つヒントが隠されています。
<その3> 小森陽一著『子規と漱石―友情が育んだ写実の近代―』集英社新書 836円(税込)
正岡子規は俳句、短歌、小説、評論などで活躍し、『墨汁一滴』や『病狀六尺』『草花帖』『歌集・竹乃里歌』がよく知られています。
一方、夏目漱石は教師、小説家、評論家、英文学者、俳人として活躍し、『坊っちゃん』や『吾輩は猫である』『三四郎』『こゝろ』『虞美人草』『それから』などが有名です。
子規と漱石の深い友情と、お互いに影響し合いながらそれぞれの文学を創造してきたことが読み取れる1冊です。
内容は、以下のように構成されています。
第1章 子規、漱石に出会う
第2章 俳句と和歌の革新へ
第3章 従軍体験と俳句の「写実」
第4章 『歌よみに与ふる書』と「デモクラティック」な言説空間
第5章 「写生文」における空間と時間
第6章 「写生文」としての『叙事文』
第7章 病床生活を写生する『明治三十三年十月十五日記事』
第8章 生き抜くための「活字メディア」
終章 僕ハモーダメニナツテシマツタ
教育調査研究所研究部長 小島 宏