Vol.29:中学校教育の抜本的改革の道筋を構築する ―和歌山県白浜町立富田中学校の実践発表会に学ぶ―

 2021年末、全国的に感染者大幅減少の中、人々の動きも平静に戻りつつあった。そんな中、映画で学んだのは『そしてバトンは渡された』だった。主人公(永野芽郁さん)の穏やかさと、父親が3回変わったということに視点がいきがちだが、母親(石原さとみさん)の「つらいときでも笑顔を忘れない、そのことが自分を支えてくれる」の言葉をしっかり受け継いだ主人公に好感がもてた。また、社会全体が依然としてつらく苦しい大変な時期だっただけに、改めて笑顔の大切さを学んだ。

 そうした中で、和歌山県白浜町立の富田中学校の研究発表会が3年11月18日に開催された。本稿では、3点について述べよう。

1.若手教員の人材育成を学校全体で支えていく
 今後ますます若手教員が増えていく中、学校教育の主役になりうる若手教員をいかに育成していくかが、全国的な課題でもある。
 富田中学校でも、研究テーマに「2030年の学校創り」がある。ここ3年間で主任の平均年齢は10歳若返ったが、生徒指導主任は4年目、研究主任は3年目の教員が、果敢にまとめあげていた。ベテラン教員がしっかり支えて、若手教員がのびのびと力を発揮できる風土が培われていた。研究発表会当日も、若手教員が登壇し、自分の言葉の力を発揮して、個性豊かに生徒たちの成長を発表していた。

2.教科の壁を乗り越えた授業改善の道筋を明確にしていく
 中学校教育の停滞感があるのは、各教科の壁を乗り越えた実践ができないことである。
 富田中学校では、基本的に全教科公開が原則だ。毎回の研究会でも全教科を公開して、教師の資質向上策として取り組んでいる。
 その決め手となるのは「板書型指導案」の取組だ。全体を1枚の指導案にまとめている。板書を明確にすることで、その効果も確かなものになっている。欠かさず取り組んでいることとして、「学習の見通し」を全教科で生徒の側の1単位時間の在り方を進めていて、開発したピクトグラムを活用して生徒の学びをしやすくしていることである。
 また、指導案に「深い学びの接近法」「期待する深い学びの成果」の項目も取り入れつつ、多くの教員の目や専門性のある教師の力も借りながら、よりよい授業を構築している。

3.セミナー方式で近隣小・中学校への働きかけをしていく
 感染症が減少する中でも学校公開しない、外部は締め出し、保護者は規制の 中でしか参観できないなど、「学校を開く」ができていない学校も多かった。
 そんな中、絶えず近隣の小・中学校の先生方への公開ならびに教育委員会の参画もあり、一体感あるセミナーを継続して進めていた。指導主事の育成も、学校や個人が担う役割もある。「学びを止めない」を、本当の意味で実践している学校はどこまであるだろうか。  今後も、小学校高学年の教科担任制の在り方が問われるだけに、小・中学校の連続性と学びの系統性を得る連携の在り方にも参考となるだろう。教職員の充足度が高まることによって、生徒・保護者・地域の満足感が上がり、学校力が向上するという好循環が生まれる。

 富田中学校が取り組んだ内容は、教育の停滞感を払拭する教育の原点なのではないだろうか。

【文責:明海大学客員教授 釼持 勉】

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