Vol.32:小学校高学年の教科担任制考3


 学校現場はオミクロン株の猛威に学校運営が機能しない自治体も出始めた。
 この時期、二つの映画に感銘を受けた。一つは、『355』である。女性5人による王道のスパイ活動映画だ。『007』 を想起する場面展開に楽しさが倍増した。スパイ映画の王道かつ現代的な感覚の醍醐味が味わえる。
 もう一つは、スピルバーグ監督の『ウエストサイドストーリー』だ。『プライベート・ライアン』や『ジュラシックパーク』などの、さまざまな場面展開を彷彿とさせる映像技術などに視線が行きがちであるが、単なるリバイバルではなく、1950年代後半のニューヨークの姿から、平和への普遍的な思いを抱かせてくれる。
 学校教育も小学校高学年の教科担任制の導入により、新時代に入っていくという認識をもっておきたい。

教師の教科担任制から児童のための教科担任制に転換
 令和4年度から全国の小学校は高学年の教科担任制の導入が始まる。4年間をかけて完全実施の道を歩むことになるが、2月末になっても依然として「何から手をつければよいかわからない」「時間割をいかに組めばよいか」「自校の学校規模に合わせて、どのような教科担任制を実施すればよいかわからない」「加配教員がいなくては始まらない」「教員相互の人間関係が難しく、学級担任から学年担任重視に不安がある」「若手教員が多く、機能しない」などが学校現場から聞こえてくる。
 教科担任制の実施に向けてのロードマップが描けない学校が少なくない。教師の教科担任制への転換が急がれる。

実践校の成果
 令和4年2月24日に東京都江戸川区立第四葛西小学校において、教科担任制推進校として研究発表会が開催された。大規模校の実践として、1年間の取組を四つの目的に合わせて分析し、教師の声、児童の声、保護者の声を通して練り上げた教科担任制の報告があった。
 課題はあるものの、1年間で四つの目的を実感できる状態となり、全教員がビジョンを理解して創り上げた小学校の姿が印象的である。
どうしても「教師の働き方改革」に関心が行きがちであるが、第四葛西小学校では教師の指導力、児童の学力向上への道筋が明確になっていて、児童に寄り添った取組になっている。

教科担任制が機能する学校創りを
 各校が段階的に教科担任制を取り入れた学校創りを構築していく必要がある。

①学校規模に応じた教科担任制にしていくこと
②どの教員も高学年の教科担任制に取り組むことができるシステムを構築すること
③世代を超えた教師の人材育成を前提とした教科担任制にしていくこと
④教科担任制実施教科以外の授業改善が図れること
⑤学校組織としての体制を工夫して学年担任制の定着を図ること
⑥教師の高度な学びを通して資質向上を目指す体制にすること
⑦保護者に信頼される児童のための教科担任制にしていくこと
⑧教務の負担増とならないよう学校体制の工夫をして運営できるようにすること
⑨小・中学校の連携力を高めて指導の質を向上させること
⑩全教職員が教科担任制について説明できること

 小学校教育の大転換点として、令和4年度の試金石となる。


【明海大学客員教授 釼持 勉】

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