Vol.58:授業における「働き方改革」

 学校における働き方改革については、中央教育審議会質の高い教師の確保特別部会の「審議のまとめ」([資料1])が公表され、改めてさまざまな議論が行われている。

 この「審議のまとめ」では、
①学校における働き方改革の更なる加速化、
②学校の指導・運営体制の充実、
③教師の処遇改善を、
一体的・総合的に推進し、業務負担と長時間勤務を減らすとしており、これまでの成果として、教師の月当たりの時間外在校時間が、小学校で約18時間、中学校で約23時間減少していること (平成28年度から令和4年度の推計値の比較)等を挙げている。

 しかし、1日当たりの在校等時間(平日)の平均で見ると、小学校教諭が10時間45分、中学校教諭が11時間1分であり([資料2]「教員勤務実態調査(令和4年度)の集計」)、やはり長時間である。

 これに「持ち帰りの時間」と、年齢別で最も長時間の「30歳以下の教諭」を加えると次のようになり、極めて深刻な状況である。

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 次に、在校等時間を業務内容別に見ると、小中ともに、最も長いのが「授業(主担当)」で、次が「授業準備」であり、関係業務である「成績処理」、「授業(補助)」、「学習指導」も加えると次のようになる。

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 これらのうち、特に「授業準備」については、夏季休業中の勤務日にも、1日平均で、小学校1時間32分、中学校1時間15分を行っており、さらには「仮に今よりも業務時間が短縮された場合、空いた時間をどのように使いたいですか」との問いに対し、「更なる授業準備や教材研究等に充てたい」と回答した教師が、小学校で31.5%、中学校で23.7%いる。

 こうしたことから、現状の「持ち帰り」だけでは十分な授業準備ができていないと考える教師が相当数いることがうかがえる。

 また、民間のアンケート調査([資料3]「教員の意識に関する調査2023」)でも、「教員の仕事で苦労していること」との問い(複数回答)に対する最多の回答は「授業の準備」40.6%であり、特に20代では54.0%、30代では49.6%である。

 以上のことから、「持ち帰り」も含めた教師の業務における「働き方改革」では、授業とその準備の効率化が急務であり、特に若手教師の「授業準備」への支援が重要であると考えられる。

 そこで、以下では、若手教師の「授業準備」の効率化を中心に、授業における「働き方改革」の方策について考えることとする。

1 週案や学習指導案等の指導計画作成の効率化
 教科書の「年間指導計画・評価計画」と各単元等の学習課題を俯瞰した上で、教師用指導書等を活用することで週案や学習指導案等の指導計画作成の効率化を図る方策である。

(1) 各教科書の出版社のHP等に提示されている「年間指導計画・評価計画」を参照する。
 この資料は教科書に準拠するものであり、教科書は学習指導要領に準拠しているため、各教科等の目標や指導事項に適合した系統的な指導を俯瞰することができる。

(2) 教科書の各単元等の学習課題(設問等)を参照する。
 この学習課題の多くは「主体的・対話的で深い学び」等を踏まえたものであり、指導事項の系統を踏まえた補充説明や発展教材への二次元(QR)コード等も付されていることから、児童・生徒の実態に応じた学習を想定しやすい。

(3) これらを俯瞰したうえで、教師用指導書の発問例や板書例等を参照することで効率化を図りたい。
 なお、学習指導案の本来の作成方法については、[資料4]の事例を参照されたい。

2 教材作成や教材研究の効率化
 デジタル教科書・教材やデジタル指導書等を活用し、教材作成や教材研究の効率化を図る方策である。

(1) 指導者用デジタル教科書の各種コンテンツをそのまま教材として活用する。
 指導者用デジタル教科書には、書き込みや付箋、総ルビや音読等の機能のほか、手順や解答、資料や図表等のスライド教材、導入や基本技能、観察・実験やシミュレーション等の動画教材、思考ツールやまとめのワークシート等、さまざまなコンテンツが単元ごとに用意されているため、これらを組み合わせて教材とすることができる。

 なお、学習者用デジタル教科書の使用が可能であれば、指導者用の基本的なコンテンツが利用でき、さらにデジタルドリル等の教材との組み合わせで基礎・基本の定着や自分のペースでの学習も可能である。

(2) デジタル指導書を自分専用の教材研究資料及び教材庫として自宅でも活用する。
 クラウド型のデジタル指導書では、解説(朱書)や授業展開例、ワークシート等について、各教師が自分の書き込みや外部リンク等を追加して使用できるため、自宅でも教材研究や教材作成等が効率的に行える。

(3) 自校で作成したワークシート等の教材や学習指導案等のデータをクラウド共有する。
 デジタル教科書やデジタル指導書等の使用が困難な場合も、教材や学習指導案等のデータをクラウド共有したり、前述の教科書の二次元(QR)コード等を活用したりして授業準備の効率化を図ることができる。

 また、NHK for Schoolのサイト([資料5])では、小中学校の学習指導要領の指導事項や使用教科書(理科・社会)の領域・単元等から動画教材を探して活用することができる。

3 授業における学習評価の効率化
 小テスト等の採点、ワークシートや振り返りシートの評価・コメント等の効率化を図る方策である。

(1) 小テスト等の採点の効率化
 採点の効率化は、従来から作問の工夫や実施時間中の採点(対面での評価)等で行われ、近年では自動採点システムの活用などが進められている。

 自動採点については、「Googleフォーム による小テストの作成と実施」(長崎県教育センター[資料6])、「Microsoft365を使用した小テスト(自動採点)、配布、提出、返却方法」(愛媛県総合教育センター[資料7])等の事例があるので参照いただきたい。

(2) ワークシートや振り返りシートの評価・コメント等の効率化
 ワークシートの評価については、短いスパンでの自己評価や学び合いのための相互評価等として、思考・判断・表現等の可視化を図るとともに、「学習の調整」の契機とすることが効果的である。

 振り返りシートについては、①単元等の導入時の疑問や課題、②展開時の学習活動におけるa粘り強い取組とb学習の調整の工夫、③まとめの振り返りと新たな課題等を同時に記入させて効率化を図るとともに、児童・生徒自身に努力や成長を自覚させるといった方策がある。その際、aとbに着目することで「主体的に学習に取り組む態度」の評価を行う。
 なお、こうした児童・生徒の記述へのコメントについては、文章生成AIを活用して指導・助言を生成して評価を行う事例([資料8]「文章生成AIを活用した児童の自由記述からの指導・助言生成の試み」)もあるので参照されたい。

教育調査研究所主任研究員 守屋一幸)



[資料1] 中央教育審議会 質の高い教師の確保特別部会「「令和の日本型学校教育」を担う 質の高い教師の確保のための環境整備に関する 総合的な方策について(審議のまとめ)」(令和6年5月13日)

https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo3/099/mext_01759.html

[資料2] 文部科学省初等中等教育局「教員勤務実態調査(令和4年度)の集計(速報値)について」(令和5年4月28日)

https://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/mext_01232.html

[資料3] ジブラルタ生命保険株式会社「教員の意識に関する調査2023」

https://www.gib-life.co.jp/st/about/is_pdf/20230712.pdf

[資料4]独立行政法人教職員支援機構チーフ研修プロデューサー 新名主 洋一「授業・単元づくり編『学習指導案の書き方』」

https://www.nits.go.jp/materials/basic/files/014_001.pdf

[資料5] NHK for School

https://www.nhk.or.jp/school/

[資料6]長崎県教育センター「Googleフォーム による小テストの作成と実施」

https://www.edu-c.news.ed.jp/web_contents/giga_school/form_test.pdf

[資料7]愛媛県総合教育センターMicrosoft365 を使用した小テスト(自動採点)、配布、提出、返却方法について」

https://center.esnet.ed.jp/uploads/jfkahioahkfanklfhakl/ms365teams001.pdf

[資料8] 東京学芸大学大学院連合学校教育学研究科 笠原秀浩,東京学芸大学教育学部 高橋 純「文章生成AIを活用した児童の自由記述からの指導・助言生成の試み」(日本教育工学会研究報告集 2023(4))

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsetstudy/2023/4/2023_JSET2023-4-B8/_pdf/-char/ja

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