Vol.56:教育とAI(その2)

 「教育とAI」については、「まなびの小径」Vol.51で、文部科学省の「初等中等教育段階における生成AIの利用に関する暫定的なガイドライン」(以下、「暫定ガイドライン」という。)の概要や生成AI活用の意義、各教師に求められること等を整理した。

 その後、生成AIパイロット校の成果報告会が本年2月20日に開催され、また、Copilot(旧Bing Chat)やGemini(旧Bard)の日本語版が公表されるなど、いくつかの進展があった。

 そこで、ここでは「教育とAI(その2)」として、以下の二つについて改めて整理する。

1 生成AIパイロット校における取組
 生成AIパイロット校は、暫定ガイドライン([注1]参照)を踏まえ、文部科学省が52校を指定している。成果報告会では、各校の教育活動と校務における生成AI活用の先行的な取組が報告された。

(1) 教育活動における生成AIの活用
 暫定ガイドラインでは、全ての学校に情報モラルを含めた情報活用能力の育成強化が求められており、パイロット校は生成AIの仕組みの理解や生成AIを学びに活かす力を次のように段階的に高める取組を行っている。

① 生成AI自体を学ぶ段階(生成AIの仕組み、利便性・リスク、留意点)
② 使い方を学ぶ段階(より良い回答を引き出すためのAIとの対話スキル、ファクトチェックの方法 等)
③ 各教科等の学びにおいて積極的に用いる段階(問題を発見し、課題を設定する場面、自分の考えを形
 成する場面、異なる考えを整理したり、比較したり、深めたりする場面などでの生成AIの活用等)

④ 日常使いする段階(生成AIを検索エンジンと同様に普段使いする)

 成果報告会のパネルディスカッションでは、茨城県つくば市立学園の森義務教育学校の生成AIを人間型ロボットのペッパー君に搭載した対話や英会話の取組(上記①②)、東京都千代田区立九段中等教育学校の情報科の探究的な学びでの生成AI活用(上記③)等が報告された。

 また、茨城県立竜ケ崎高等学校では公民科のディベート等で活用しており、「(生成AIは)ちょっと抜けたエモいバディ」といった生徒の感想が紹介された。こうした感想は、上記①でのハルシネーション等への留意や、上記②のファクトチェックの指導の成果の一つであると考えられる。

 (2) 校務における生成AIの活用
 暫定ガイドラインには、「教員研修や校務での適切な活用に向けた取組を推進し、教師のAIリテラシー向上や働き方改革に繋げる」とあり、次のような校務での活用が例示されている。

① 児童生徒の指導:教材や問題の作成/授業準備での模擬授業の相手など
② 学校行事・部活動:学校行事等の企画案や文書の作成/部活動等の経費の概算など
③ 学校の運営:報告書、資料、挨拶文、授業時数の調整案の作成/HPの構成など
④ 外部対応:保護者向け文書の作成や翻訳など

 パネルディスカッションでは、愛知県春日井市立藤山台中学校から校務の時短やアイデア出し、PCのプログラム支援等の実践事例が紹介されたが、特に「教頭など、忙しい人から活用が広まる」、「まず校務で活用して教師が良さを実感することで活用が広まる」といったことが印象に残った。
 また、その他各校のポスター展示でも、上記①~④の校務や校内研修での活用事例が紹介されていたが、専門家や企業との連携により自校用の生成AIとして活用している事例が参考になった。

 なお、生成AIパイロット校の取組実践や公開授業等は、文部科学省の特設サイト([注2]参照)に順次掲載されている。

2 新たな生成AIを活用した教師のAIリテラシーの向上
  暫定ガイドラインで例示されている対話型生成AI のChatGPT、Bing Chat、Bardのうち、Bing ChatはCopilotに、BardはGeminiにリニューアルされている。
 この二つの生成AIは、スマートフォンからも無料で利用でき、音声や画像の入力も可能であることから、児童生徒が学校外で使うことも容易である。そこで、生成AIの指導にあたっては、教師もCopilotやGeminiを事前に使ってみる必要がある。

 また、無料版のChatGPT(GPT-3.5)では、回答の基となるデータの出典や処理の手法・過程等が示されないため、回答の内容の信頼性や著作権の扱い等の判断が困難であるという課題がある。一方、CopilotやGeminiでは、次表〔参考〕のように参照サイトの提示や生成物の自己評価が行えることからデータの出典や処理の手法・過程の適否が判断しやすい。そのため、CopilotやGeminiについては、現在使用している生成AIの比較確認(「セカンドオピニオン」)にも活用できる。

 なお、活用にあたっては、暫定ガイドラインP.15「各学校で生成AIを利用する際のチェックリスト」等で留意点を確認したい。

〔参考〕ChatGPT-3.5、Copilot、Geminiの比較

Photo_3

 




 この比較は、私が「定点観測」のように行っている「ごんぎつね」のあらすじの生成による例示であり、普遍的な評価ではない。

 なお、上表におけるChatGPT-3.5の回答は次のとおりである。

*1「『ごんぎつね』のあらすじを要約すると、山の中に住むごんぎつねが、おじいさんに捕まり家に連
  れて行かれるが、おじいさんの優しさに触れ、自由を取り戻し子狐たちと共に山へ戻る、という物
  語です。」(ハルシネーションあり)


*2「申し訳ありませんが、具体的なサイトや参照先に基づいて回答することはできません。私は過去に
  学習した情報に基づいて応答しており、その情報は様々な信頼できるソースから収集されたもので
  す。」(出典不明)


*3「申し訳ありませんが、自己評価は行えません。私は文章生成AIであり、自己評価や感情を持つこと
  はありません。」(回答生成の観点不明)


 また、Copilotでは参照サイト(*4)に個人のブログがあり、同様にGeminiでは「青空文庫」や「Wikipedia」を参照していた(*5)ため、追加の指示(プロンプト)で改善させている。


(教育調査研究所主任研究員 守屋一幸)


[注1]:文部科学省「初等中等教育段階における生成AIの利用に関する暫定的なガイドライン」Ver1.0
   https://www.mext.go.jp/content/20230718-mtx_syoto02-000031167_011.pdf


[注2]:文部科学省「生成AIパイロット校一覧」、「指定校公開授業等・公開学習会予定」、「取組実
   践」(「リーディングDXスクール」のサイト内)
   https://leadingdxschool.mext.go.jp/

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