Vol.59:私の気になる1冊(4)

松田哲夫編
『中学生までに読んでおきたい哲学➐ 人間をみがく』

  本書は、『中学生までに読んでおきたい哲学』<全8巻>の中の1冊です。
  編者は、本書の解説「人間、この愛らしく風変わりな動物よ」の冒頭で、「『人間』のことを考えよう、『自分』のことを考えようというのが、この巻の趣旨です」と述べています。

  本書を読み進めるにあたって、「哲学」とは、ざっくり言って、「経験等に基づいて築き上げられた世界観・人生観」、「あらゆること全てを貫く基本的な考え方・思想」、「世界や人生の根本原理」、「人生の意味や価値観を見つけること」と理解しておくとよいでしょう。

  本書は、「人間」のこと、「自分」のことを考えるよりどころとなるように、多くの人が知っている著名人21人に「人間」や「自分」のこと、つまり「哲学」を、次のような構成で語らせています。

・古今亭志ん生「宿屋の富」
・内田百閒「蜻蛉玉」
・中川一政「へそまがり」
・吉田健一「贅沢/貧乏」
・須賀敦子「ほめる」
・白洲正子「人間の季節」
・串田孫一「叱る・しかる・怒る」
・湯川秀樹「甘さと辛さ」
・河盛好蔵「イヤなやつ」
・大庭みな子「遠い山をみる眼つき」
・河合隼雄「人の心などわかるはずがない」
・吉野秀雄「ひとの不幸をともにかなしむ」
・森毅「わらじは二足」
・吉田満「転機」
・渡辺一夫「服装の効用について」
・茨木のり子「一本の茎の上に」
・堀田善衛「世界・世の中・世間」
・丸山眞男「『である』ことと『する』こと」
・星新一「生活維持省」 
・小松左京「再建」
・幸田露伴「太郎坊」

  どれも作者の哲学(人間観、自分観、物の見方・考え方)がにじみ出ていて、「中学生までに」と謳っていますが、大人にも老人にも学ぶことがたくさんあります。
  一読して、「なるほど、この人は、こう考えているんだな」と自分の受け止めができた後で、巻末で編者が解説している「それぞれの人の哲学の趣旨」と比べてみると、いっそう深まるに違いありません。

  中学生までに読めば、「自分の未来(生き方、人生)」へ向かってさまざまなヒントや可能性が得られると思います。
 また、大人が読めば、現在の生きざまを確認して、よりよい生き方へ向かう示唆が得られるでしょう。
  そして、高齢者が読めば、歩んできた人生を振り返り、「この人の哲学」のように生きてきたんだと、価値づけることになるかもしれません。

A5変型判 256ページ 定価1,980円(税込) あすなろ書房


(教育調査研究所研究部長 小島 宏)

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