Vol.72:絵本が語る「あれこれ」

 絵本は、子どもに読み聞かせるもの、子どもが読むものと思われがちです。
 しかし、その内容は、子どもの未来に向けて「何か」を育てるとともに、現在の大人の生き方について深く考えさせるものが少なくありません。

 例えば、落語家の初代林家三平師匠の妻である海老名香葉子著『えくぼのかよちゃん』(金の星社、2020)は、実に多くのことを、子どもにも大人にも教えてくれます。

 この絵本では、昭和8(1933)年生まれの香葉子さんが、両親ときょうだいで楽しく和やかに過ごしている様子が、わかりやすい文章と林家三平師匠の弟子の林家しん平さんのほっこりする絵で表現されています。
 そんな平和な家族が、昭和20年3月10日のB29による東京大空襲で、ことばでは言い尽くせない悲惨な状況になってしまったのです。

 私は、香葉子さんのお子様やお孫さんが通学していた東京都台東区立根岸小学校の校長として勤務していたので、少しだけ親交があり、次のような便りをいただいたことがあります。

 《私の夫に続いて、親・子・孫3代が根岸小学校の同窓生で、根岸小学校の校歌「春は上野の山桜…」を私も覚えて歌えます。私は、戦争孤児で家族6人行方不明のまま、いまだに悲しみを胸にしたままです。「戦争は絶対いけない」「平和を守って」と伝え続けます。》

 この絵本の最後は、空襲で香葉子さんとお兄さんだけになってしまうひどい場面に続いて、ひとりぼっちで泣いている香葉子さんに、両親があの世から「かよちゃんは強い子、どんどんまっすぐ歩いていってね」という声が聞こえてきて、それを励みに今まで生きてこられたとなっています。

 感動しました。そして、私も香葉子さんの真似をして、ささやかながら「戦争は絶対いけない」と、訴え続けています。

 ところで、最近、図書館で「人生の危機から立ち直らせてくれるこころを癒す絵本案内」と称した、柳田邦男著『生きる力をくれた一冊の絵本』(岩波現代文庫、2025)を見つけ、読みました。

 海老名香葉子さんの『えくぼのかよちゃん』が訴えているように、この本も「絵本が、子どもだけのものでなく、大人も多くのことが学べ、人生のヒントになる」というものです。

 内容は次のような構成になっていて、22冊の絵本を紹介しています。
1「絵本は人生のパンセ」 “心のあや”を飾る絵本たち など
2「大変な時代の子どもの心」 向き合う会話が心の発達に など
3「自然はいのちの湧き出る現場」 人はなぜ動物を愛するのか など
4「大人に絵本を語っていく私」



(教育調査研究所研究部長 小島 宏)

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