Vol.12:Society5.0 時代の学校は「ヨコ社会」?

根強く残る日本の「タテ社会」

 東京五輪の日本側組織委員会の会長が、女性蔑視発言の責任をとって辞任を表明し、その後任会長として身内の高齢男性を指名しかけたこと、しかもそれを関係者内で容認しかけたことには、唖然とさせられました。しかし、現在も日本社会ではこのようなことが通用しがちであると認めざるをえません。

 昨年末に、学校教育における対話学習の重要性を指摘されてきた金沢学院大学の多田孝志先生からいただいたメールの中に、中根千枝氏が2019年に刊行した『タテ社会と現代社会』に触れた次のような一節がありました。

  「『タテ社会と現代社会』には『タテ社会の人間関係』(1967)以降、50余年たっても日本の社会の基調は変わっていないとの鋭い指摘が記されています。日本の社会、学校教育の根本を問い直し、多文化共存の新たな時代に向けて拓いていくことは緊要の課題と考えます。」

 多田先生は、『事典 持続可能な社会と教育』(教育出版、2019年)の「共創型対話」(p.222 -223)という項目で、グローバル時代、多文化共生社会における共創型対話の要点として「完全には分かり合えないかもしれない相手とも、できる限り合意形成をもとめての話し合いを継続していく粘り強さ」などをあげています。しかしながら、トップの判断に異論をはさまない「わきまえた」態度を求める風潮やコロナ禍の中での「同調圧力」など、共創型対話と対極の姿は根強く残っています。

 「タテ社会」の構造と学校
 中根氏は、『タテ社会の人間関係』の中で「タテ社会」と「ヨコ社会」の構造の違いを、以下の図を用いて説明しています。(p.114-115)

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 第1図の要点は、Yの「ヨコ社会」においては三角形となっているのに対し、Xの「タテ社会」では、底辺のない三角形となっている点です。

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 第2図は、構成員を増やして複雑にしたもので、Xの成員はaを頂点としてのみ全員がつながっているのに対し、Yではすべての成員が互いにつながっています。 
 このすべての成員が互いにつながっている「ヨコ社会」をより正確に図化すると、第2図の右側の七角形は図3のように書き表せます。

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図3 各構成員が互いにつながる「ヨコ社会」(中根氏の原図に諏訪が対角線を加筆)

 中根氏は、日本に「タテ社会」が生まれた理由として社会の「単一性」をあげ、江戸時代以降の中央集権的政治権力に基づく行政網の発達や、近代における徹底した学校教育の普及が、日本社会の単一性を推進させてきた、と指摘しています。考えてみると、校長以下のピラミッド構造をもつ学校の教員組織そのものが「タテ社会」ですし、教科という枠組みと教科別の免許制度や教員養成制度がそれをさらに増幅させています。


 Society5.0 時代の学校は「ヨコ社会」?

 今回の中教審答申「『令和の日本型学校教育』の構築を目指して」では、ICTの活用による「個別最適な学び」が注目されていますが、この「個別最適」という表現は、文科省が2018年6月に取りまとめた「Society5.0に向けた人材育成」に登場しています。そこでは、ICTの活用による「個別最適化された学び」も強調されていますが、一方で、Society 5.0時代の学校の在り方として、「学校の教室での学習のみならず、大学、研究機関、企業、NPO、教育文化スポーツ施設、農山村の豊かな自然環境などの地域の様々な教育資源や社会関係資本を活用して、いつでも、どこでも学ぶことができるようになる」と、学校外の「ヨコ」の関係にある様々な組織や資源を活用した姿を構想しています。

 しかし、多文化共生社会に求められる「ヨコ社会」への転換には、学校の、特に教職員の意識変革も不可欠です。各教員には、自分の職場が「タテ社会」であり、そこにどっぷりと浸かっていることに自覚的であることが求められています。そのために勧めたいことが二つあります。

 一つ目は、NPOの活動への参加です。NPOには自分の職場から一歩離れた立場で集まってきていることが多く、多様性に富む傾向があります。社会の様々な側面を知ることもできますし、学校以外の世の中の様々な仕組みを知ることもできます。
 もう一つは、授業の中に極力「SDGsの学び」を取り入れること。SDGsでは17の目標間の相互関連性と統合性が重視されており、私は以下の図を用いてSDGsの目標間のつながりを説明しています。この図が、「ヨコ社会」を表した図3と同じ構造であることは言うまでもありません。

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NPO法人八ヶ岳SDGsスクール理事長、学習院大学名誉教授 諏訪 哲郎

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