Vol11:読解力と学際力

私の疑問―読解力教育はイノベーションを生む若者を育てるか?

 現場の教育者も文部科学省も、今求めているのは「次世代を託するに値する若者を育てるにはどうしたらよいか?」、言い換えれば、イノベーションを生む若者を育てる教育です。多くはその答えを「読解力」に求めているように思いますが、果たしてそれは正解でしょうか?

  新井紀子氏(情報学研究所教授)は「日本人は読解力が弱く、基礎的・汎用的読解力を身につけて中学校、そして高校を卒業させることこそが、21世紀の公教育が果たすべき役割の一丁目一番地…」(『AIに負けない子どもを育てる』2019)より)と言います。ただし、「読解力は、AI時代を生き抜く力(すなわち、AIが原理的に不得意な力は)である」と言い、イノベーションを生むとは言っていないことに注意してほしい。

  本田由紀氏(東京大学教授)は日本人の読解力は世界的に見て「異常に」高く、その他の学力も同じく突出して高いことを示し(図1-1、1-2、1-3、○が日本人)、格差と不安に満ちた現状からの出口として、水平的な多様性教育を提案しています(『教育は何を評価してきたのか』2020)。

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図1-1

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図1-2

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図1-3

学際力がイノベーションのエネルギー

 イノベーションを生む力は「学際力」です。学際力とは、多様性に富む個が対等な立場で分野を超えて交流して融合することで生まれるイノベーションのエネルギーです。世界のイノベーションは異分野の融合から生まれています。

  残念ながら日本人(大人も若者も)が世界の知性に比べていちばん劣っているのは学際力です。その根拠としてハーバード大学幹細胞研究所(Harvard Stem Cell Institute, HSCI)を紹介します。

  HSCIはハーバード大学関連の多数の教育研究機関の横断的組織で、ある東京大学のチームが、さる国際共同研究プロジェクトで組んだ相手です。東京大学チームの面々の読解力は極めて高かったことを先に述べます。東京大学チームのマネージャーとして私は、東京大学チームに身近に接し、ハーバード大学のチームと頻繁に話し合い、二つの研究チームの能力の桁違いの差を発見し原因を分析しました。

  結論は学際力の違いです。多様な個が独自のアイディアを生み共有し水平な立場で議論する力の違いです。東京大学チームの面々は、多様性に欠けアイディアを隠し、やらない言い訳がうまく、タコつぼ的研究に没頭して対照的でした。

 HSCIの研究の仕組みを紹介します。

  まず(1)研究員は博士研究員でも教授でも水平で上下関係はありません。

  次に(2)若者のアイディアを大事にする仕組みです。図2-1の左にあるSeed Grantsが若者のアイディアを募る装置です。

 もう一つ特筆したいのは(3)基礎から医師までの学際的研究体制です。図2-2は糖尿病プログラムで、最終目標はアメリカ食品医薬品局(Food & Drug Administration, FDA)の前臨床研究の許可を受けることです。なぜそこまで行けるかというと多数の企業との協力関係があるからです。右の図が参加企業で、抗COVID-19 RNAワクチンで話題のモデルナも含まれています。

21 図2-1

22_2図2-2

  HSCIは「科学立国日本」の再建モデルです。「つくば」からも「けいはんな」からも世界を席巻するイノベーションが一つも興らなかった事実を思い出してください。

 

グローバル教育企画社、ボストンブリッジ代表 蝦名 恵

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